DAWN OF THE ZOMBIE〜ブードゥー・ゾンビ編(前編)〜
7月7日映画脳 vol.05「ゾンビ映画特集」やりました。
このページでは、映画脳に向けて調査した『ゾンビの歴史』について簡単に紹介します🧟♂️
「ゾンビって、なに?」
みなさんは何と答えますか?
「人を食べるためにさまよい、手足を破壊しても動き続けて、噛まれると感染してゾンビになってしまう」映画によって設定は異なるものの、「ゾンビらしさ」を保つための、ある程度の約束事は存在します。
そしてこの広く認知されたゾンビのルールってのは、実は「モダン・ゾンビ」とよばれる分類に入るらしいのです。
モダンと呼ぶくらいですから、「古いゾンビ」も存在します。ではその「古いゾンビ」とは、一体どんなゾンビなのでしょうか?
1929年、探検家ウィリアム・シーブルックという男が、ハイチの民間信仰ブードゥー教を取材し、その探検記がアメリカで出版されました。「Magic Island」 はアメリカでベストセラーとなり、当時の国民に衝撃を与えます。その衝撃の内容こそ「ゾンビ」です。シーブルックが本で紹介したところによると、ボコールと呼ばれる呪術師が人の魂を吸い取り、その死体を「意思のない労働力」つまり「奴隷」として復活させる、という話がブードゥー教では伝承されているらしいのです。
キリスト教国家のアメリカにおいて、「復活」とはつまり「キリスト」そのものを指し、奇跡として聖書に記されているわけですが、それがハイチでは、奴隷を生み出すための「呪い」に変わってしまうことに、当時のアメリカ人は大きなショックを受けました。
この本が出た頃のアメリカはハリウッド黄金時代。この時代を支えたのは、「ドラキュラ」や「フランケンシュタイン」など、ホラー小説を原作に持つモンスター映画。その流れの中、「Magic Island」を原作に史上初のゾンビ映画が作られます。
1932年「White Zombie」です。
原作同様、ゾンビを操るゾンビマスターが登場し、ゾンビたちは彼の命ずるままに行動します。まさしく奴隷です。そして観客は、ゾンビマスターのルジャンドルに恐怖を覚えたのです。この映画のモンスターはゾンビではなく、魔術師ルジャンドル。そしてゾンビは彼が悪行を成す「手段」に過ぎませんでした。
この映画を皮切りに、その後もゾンビとゾンビマスターが登場する作品がいくつか公開されます。
50年代に入ると、アメリカ対ソ連で覇権争いが勃発します。「科学を制した国が、世界を制する」この考えに囚われた両国は、宇宙開発競争によって決着をつけようとします。急速に発展し続ける科学技術は、世界中の人々に、人類の持つ無限の可能性を示しました。しかしその一方で、神に近づこうとする高慢さに不安を抱く人たちもいました。核爆弾を落とされたトラウマを持つ日本人が、ゴジラを生み出したのもこの時代。そしてゾンビ映画にも「科学」の要素が加わります。
「ゾンビマスターとゾンビ」という形式は変わらずに、ゾンビマスターが呪術師から科学者へと変わります。科学の力でゾンビを生み出したのです。そしてなにより不気味なのが、その科学ゾンビを「一般市民の中に紛れ込ませる」という展開です。
当時は「赤狩り」と呼ばれる運動が盛んで、仮にソ連を支持するようなことを言えば、業界から追放されてしまう、そんな時代でした。裏を返せば、それほど敵国の思想や存在が脅威だと感じていたのでしょう。「隣にいるあいつは敵か??味方か??」という恐怖は、一般市民に紛れ込むゾンビとして表現されたのです。「スナッチャーズ」や「遊星よりの物体X」が公開されたのもこの時代でした。
そして”Creature with the Atom Brain”には、もう一つ時代を象徴するポイントがあります。
作中、ゾンビたちの額にある大きな傷のようなものが目立ちます。これは遠隔操作するための受信機を、頭部に埋め込む時にできた時手術痕。彼らは脳みそを、改造されたのです。この「脳みそを改造する」から連想されるのは、世界で実際に採用されていた ある有名な治療法です。
30年代から発明された「ロボトミー手術」と呼ばれる治療法は、不安症やうつ病に効果があるとして、公にも認められていた革新的技術でした。こめかみに穴を開け、専用の器具を脳に向かって差し込み、器具の先端に付いているナイフで、前頭葉を切除する。そうすることによって感情を司る神経を遮断し、患者を不安から解放しようと考えたのです。確かに症状改善に効果はありました。しかし、患者は副作用としてその他の感情も一緒に失ってしまったのです。「楽しい」などの喜びの感情もなく、創造性も個性も失い、ただそこに存在するだけの「生ける屍」と化した患者たち。このリアルな世界で、人間がアンデッドを生み出していた事実は、ゾンビがスクリーンの中だけの話ではないことを国民に突きつけたのでした。
その後も様々なタイプのゾンビが登場します。宇宙人が死者を蘇らせて、地球侵略に使うなど、それでもゾンビマスターとゾンビの組み合わせは継承されていきました。このような古いタプのゾンビは、今では「ブードゥー・ゾンビ」と呼ばれています。
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